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ソノヘソ 


へっぽこな日々のこととその場の思いつき
by ソノヘソ

有言実行の母という生き物


正月早々、祖母が逝った。
我が家に来て二年三ヶ月、大往生だった。
末っ子の母にとって自分の母親を介護するのは全くの想定外で、ずいぶん大変だったと思う。

母と祖母は今でいうネグレクトっぽい関係で、母は祖母に何かしてもらったと思っていない。母は祖母に昔の恨みを吐き出し、祖母は何度も母に謝る。

 祖母はたいへん変わった性格で自分勝手だ。
医者から水を飲み過ぎるなと止められていても自分で飲みたいから飲む。
勝手に家を出る。
祖母がいるときは水場はすべて縛られ、トイレも玄関も施錠された。

我が家に来たときはまともに歩けなかった祖母も母の食事のおかげで健康的な体型になり、水を狙って走れるくらいになった。
自分で顔を洗い髪をとかせるようになった。
デイケアのカルタ大会ではいつも一番で誉められる。

この冬、誤嚥性肺炎になり入院した。
頑張り過ぎる母を警戒して家族でローテーションを組んでお見舞いにいく。
膿がとれて肺炎は治ったけれど、祖母はものを飲み込む力が衰えていて、医者に胃ろうを勧められた。

胃に穴をあけてチューブで栄養をとる胃ろうにしないと退院できないので胃ろうにすることになった。
それから母は毎日病院に通い、胃ろうのケアや吸引の方法、床ずれの手当を看護師さんから習った。

体育会系の母は全力で覚え、寝たきりの祖母を自宅介護するための準備を整えた。
大きなベッドが入り、吸引器や液体食を吊すためのフックが用意された。
気分がいいようにとオレンジの精油を香らせや消臭の為の炭も箱買いだ。

鶏ガラのようになった祖母が自宅に帰ってきた。
もともと独り言が多かったが、今ではボリューム調整ができず、一日中大声で何か言っている。
訪問のお医者さん、看護師さん、ヘルパーさんのスケジュールが綿密に組まれた。
いつもの家事に祖母の介護が追加され、母の毎日は過密すぎる。私も手伝うけれど仕事があるから気休めみたいなものだ。
家に帰ってきて四日目の朝、祖母が死んだ。

祖母が入院する前から母は言っていた。
「婆さまが死んだらば、婆さまグッズはすべて捨てる。再出発だ」
着の身着のままできた祖母に母はデイケアに通うからと新しい洋服を買った。
最終的には母より衣装持ちになっていた。
寝たきり介護の為のグッズもずいぶん買っていた。

祖母が逝った日の午後、母は大掃除するみたいに祖母の持ち物を整理した。というか捨てた。
有言実行。ゴミ袋九個にもなった。

生活力の基礎が違う、という言葉を読んだとき
母が浮かぶ。
祖母を引き取るときは「我が娘も介護を知るのにいい教育だ」
弱った祖母を元気にするためのあれこれを「自分が老人になったときに役立つ」
入院したらば「家にいない分、楽をさせてもらっている」
胃ろうになったらば「ミルクのみ人形みたいでチューブをつなぐのがおもしろい」
寝たきりなのに元気にわめく祖母に「こんだけ元気があれば老人ホームにも入れるな」

常に今しかない。
今やることを順番に片づけていく。
疲れて不機嫌になるけれど、なんとか合理化の方法を探す。
新しい状況の面白味を見いだす。
終わった過去やこない未来を思い煩わない。
とりあえず今、なにをするべきか。
それだけ。

やりきったから後悔もない。
「私が看取ったし、自宅で息を引き取った。婆さまも満足だろう」
といって、祖母のものをゴミ袋に放り込んでいく。
無駄なものは家に置かない主義だから、亡くなった人のものも処分する。

そうして訪れた久しぶりのゆったりした時間に
「これも婆さまの介護をしたから味わえるありがたさだ」
といって寝っころがってテレビを見ている。

現在しか生きていない。
やるべきことをやっているだけ。
言ったことを実行する。
生活するものの強さはどんな状況にあっても
強さとして価値は変わらない。
我が母ながら本当にすごいと思う。
by sonoheso | 2012-01-17 19:31 | 考える筋トレ部
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